第四部35話 般若心経の贈り物(一切経の歴史5)
「よかったら、こちらもご一緒に」と言われてもう一枚の紙を見せられました。
それは「般若心経」の紙でした。
お坊さんの話のあらましは、こうでした。
寶蔵院さんの蔵にある、印刷の版木のうち、一番よく刷られるのが「般若心経」です。
般若心経の版木はいたみがはげしく、「字が壊れかけ」のものもあり、これ以上刷ってはいけない、ということで、般若心経は現在では刷っていないのだそうです。
持ってきてくださった般若心経の紙は、もうこれが最後です、と言って刷った最後の紙なのだそうです。
「そんな貴重なものを頂いていいのでしょうか?」
と言いながら受け取っていた時、
「後ろをごらんください」
と言われました。
ふりかえると、私の真後ろには、なんと、玄奘さんが!
玄奘三蔵法師さんがお経を持ち帰られる姿を描いたものです。
中国のを石碑に彫り込んだものを拓本したものでした!
(今、これを書きながら調べてみると、その石碑は西安の碑林博物館にあるそうです。
「え、西安? 石碑がいっぱいある博物館、行ったわ、私!」
とびっくりしました。
20代の頃、まだ何の勉強もしてなかった頃、太極拳だけはしていて、
初めての海外旅行が中国の北京、西安、上海だったのです。
石碑がいっぱいあった、ということだけは覚えていて、玄奘さんの石碑は見たかどうか、わかりません。覚えていません。
玄奘さんは、持ち帰った沢山のお経を翻訳され、漢語に翻訳された経典は慈恩寺というお寺に塔を作られ、そこに納められた、という話で、その塔はバスの中から眺めた記憶はあります。(登ったかなー? 登った記憶はありません)
・・・・ここで話題を寶蔵院に戻して。
私は漫画動画の「般若心経」の回を、お寺の住職とお坊さんに見て貰う時、真後ろに玄奘さん(の拓本)がおいでだとは、全然気がつきませんでした。
それで、「最後の般若心経の刷った紙をどうぞ」と言われた時、
お坊さんから言われたのだけれど、まるで玄奘さんから「どうぞ」と言われたかのような気さえして、感動を禁じ得ないのです。
続く