第三部060話 柱のセミ(内宮古殿地清掃奉仕3)
宇治からバスに乗って近鉄電車に乗り換えて、
伊勢市駅に到着しました。
宿泊のお宿は駅のすぐそばの和風の旅館にしました。
そこは磨き上げられた木の温かさが、ほっこりするとてもよい旅館でした。
階段にせよ、お風呂にせよ、そこにいるだけで気持ちがよくて、
何から何まで「おこしやす」の心が伝わる旅館でした。
今まで私は旅行の時に、こういう和を感じる旅館はあまり使わず、
ビジネスホテルのような所に宿泊することが多かったので、
「もっと早くこの旅館を使えばよかった」と後悔したほどです。
お部屋は空間がゆったりとしていました。
敷いていただいた布団はほどよいふくよかさで、
温かく包まれていると感じる布団でした。
それは主人と結婚して最初の旅行で、
湯郷の温泉旅館に泊まった時のことを思い出させました。
この時、結婚にむけての準備で疲れ果てていました。
ふたりでこの先どうなるか、わからなくても、
この旅館にだけは泊まろう、と思って出かけた時の
ホテルのベッドの布団とまくらは最高の安眠熟睡をくれて、
夜12時前に眠って、翌朝10時前まで寝てしまいました。
そのときの感じに近い感じがしました。
最高の綿を使って作られた布団のような感じがしました。
翌朝、心のこもった朝食をいただき、支度をして旅館を出ました。
まず外宮さんの御正宮にお参りと思いましたが、
旅館のすぐ前に、小さなその地域を護っている神社がありました。
安眠熟睡のお礼に、その神社をお参りしました。
すると、伊勢神宮の外宮、内宮の御正宮の御垣内に
しきつめられている白石に似たような石が境内に敷かれていました。
「これは、まるで御正宮の御垣内参拝・・・」と思いました。
安眠熟睡のお礼を申し上げました。
そこにはお稲荷さんもありましたので、お参りしました。
すると、その柱にセミの抜け殻が!
とても珍しいことではないか、と感じました。
蝉は3年から7年もの間幼虫の状態で土の中にいて、
土から出て成虫になって1カ月だけの命だそうです。
長い期間土の中にいて、地表にはいでて、
たまたまかもしれませんが
神社の柱にとまって成虫した、だなんて、凄い話ですよ。
もしかして、
地面の中にもぐっているかのように、
アンダーグラウンドみたいな気持ちで
鬱人生を生きてきた人が、
ふとある時に、そこを抜け出て、
神さまのお導きで、殻を破って心の羽根をひろげて
そこから思いっきり生きる、ということだってありえますよね。
私達も過去をぬぎすてて、心の羽根をひろげて、
生きたっていいのですね。
暗い過去があった、という人はきっとそれは幼虫の時代だったのかもしれない。
今は、羽根をひろげて、飛び立ったって良いんだ。
そんな風なことを思います。
それから外宮へ向かいました。
つづく