第三部032話 素通りできない(初夏の仁和寺5)
五大明王が描かれている裏側の壁画に
まわりこむ、角のところに、
一人のひとがいらっしゃいました。
・
正確には「人」ではありません。
「位の高い人の姿をしている像」です。
見るからに高位の皇室の方、という
雰囲気なのです。
☆
他の参拝者が素通りして、
五大明王壁画の説明を聞いているのに、
私は、その手前の角っこで、
角におられる方にむかって
頭を下げています。
頭を下げずにはいられないのです。
あやゃゃゃ!
☆
例えばあなたが道を歩いていて、
とつぜん天皇陛下ご一行が通りかかる
ところに出くわせたとします。
どうしますか、
わわわわわ、と言って、
下がって道をお譲りするでしょう。
それと同じレベルのことが
そこで起こりました。
☆
その「角にいらっしゃった人」は
どなただと思われますか?
「光孝天皇」です。
天皇ですよ!
像なんだけれども、まるで生きた人が
そのままそこにいらっしゃるかのように
リアルに高貴な雰囲気を感じて、
頭をさげずにはいられませんでした。
それもなかなか頭をあげられないのです。
・
頭ではわかりませんが
身体が
「ぃゃぃゃぃゃ、私のような下々の者が
陛下の前を通るなんて恐れ多い!」
という風に反応を示すのです。
☆
何回か頭をさげているうちに、
「まぁ、もうよいわ、行きなさい」と
言われたかのようで、
やっと前を通ることができました。
裏の壁画のところに進むと、
それこそ物凄い迫力の五人の明王様の
像が壁に描かれていました。
つづく