ひろみの広い空15
翌日は朝からひろみは史子とジェームスと犬を連れて、近くの山に散歩に出かけました。
しばらく歩くと、広くなったところがあり、お花畑になっていました。
「うわぁー綺麗! なにこれー、とっても綺麗!」
ひろみは興奮して走り出しました。お花畑のなかをずんずん歩いて行きました。ひろみが歩き疲れて芝生に仰向けになっていると、おばの史子がやって来て、ひろみの顔を覗きこんで言いました。
「気持ちがいいだろう?」
「うん、気持ちがいいー!」
「真剣に真剣に頭を使いすぎたら、解放しないとねー。」
「うんー。」
「あなたは昨日の晩、自分は駄目だ、とか。何がやりたいか、自分でもわからない、と言った。」
「うん。」
「そりゃそうだ。だって、家と学校の往復しかしてないし、自分のことも世界のことも未知数でわからないよね。」
「ん。」ひろみは起き上がりうつむきました。
「だからこそ、こういう体験もしてほしいの。自分はどんなことが楽しいのか、どんなことに興味があって、どんなことに興味がないのか、自分でわかって欲しいんだ。」
「うん。おばさん、こんなお花畑、大好き!」
「でしょう?お花畑なんて土地を無駄に使うと言う人もいるけど、私はここが好きなんだー。」
「ここはおばさんがお花を育てたの?」
「もともとお花は咲いてたの。そこに、もっと種を植えてみたの。この土地にどんな花が合うのかなぁーと考えながら。」
「そうかー、何も手つかずのままの自然て訳ではないのか。」
「そうだよ。ひろみだって、あなたは自然のままでいいんだけど、髪はとかすでしょ? 歯は磨くでしょう? ごはんは食べるでしょう?」
「自然、とか、ありのままで、というのは、何もしない、というのとは違うのよ。自然体で生きるってこと。自然体でやりたいことはどんどんやっていく。のんびりしていてもいいんだよ。だけどやりたいことをやっていくと、自然にやりたいことが増えていくものなの。」
史子は一気にしゃべって、ひろみの額に自分の額を重ねて言いました。
「ひろみ、焦らなくていいよ。一気に、今すぐにやりたいことをいっぱいやりなさい、と言うのではないから。ひとつずつから始めたらいいんだよ。」
「うん。うん。」
ひろみは涙が出てきました。
「おばさん、やさしい。」
「やりたいことがみつからないくらい、未知数なことは、白紙だから、何だってやれちゃう。最高だよ!」
「そうなの?」
「そうだよ。頭が古くなると、頭がこりかたまって、あらあれはこうでないと、できない、とか。何々はやり方を知らないからできないとか。そんな事ばっかり言うんだよ。」
「それは、若い人でも言います。」
「でしょ? 若くて新しいパソコンでも、その中ソフトが超古!の概念ソフトを入れてしまったら?」
「ああ、そうか、外側は若くても中身が年寄になるのか。」
「そうよ。その頭の中の年寄のソフトが、外側の若い身体を年寄じみた風に使うのー。最低だよ!」
「あぁ、私、そうだったかも。」
「ある程度は仕方ないのよ。頭は真っ白では動かないので、ソフトはいれないと動かないの。だから、赤ちゃんとか小さい頃は親のソフトをコピーして、もらうの。」
「うんうん」
「ある程度使ったら、自分でカスタマイズできるからね。ただ、むやみやたらに親から貰った基本データを消さないで、きちんと消化して、変えていくのがコツなんだ。」
「おばさん、凄いねなんでも知ってる」
「私は親のソフトを削除しまくった、クチだからー。」
「やぶれかぶれで、飛びまわったから、何でも自分でやった。」
「おばさんは素敵」
「ひろみ、ありがとう。」
そこにジェームスが犬の散歩から戻って来ました。
ひろみはお花を少し摘んで持って帰ることにしました。