ひろみの広い空14
ひろみがおばの史子と一緒に山を降りて帰っててくると、家に明かりがついていました。
「ワワワワン!」
犬の泣き声がしました。
コリー犬が家から出て来て、二人を迎えました。
「あ~、よしよし。ヨーク、いい子だねぇ。」
史子はコリーを撫でました。
扉が開いて男性の声がしました。
史子の夫である、ジェームスです。
「フミコ、おかえり。」
「ジェームス、姪のひろみよ。」
「ヒロミ、こんばんは」
「ジェームスおじさん、初めまして。」
「ヒロミ、はじめましてじゃないよ。
あなたがまだ小さなベイビーだった頃に会っていますよ。」
「あ、そうだっけ?」
「あなたが2才の時にも会っています。」
ジェームスからそう言われて、そうか、と思って、何て答えていいのか、わかりませんでした。
「わかりました」といえばいいのか。でも覚えてないことはわからようがないではないか、と思ったり。
「覚えていません」といえばいいのか。
頭の中で正解の答えを探そうとして、言葉があふれてしまい、悶々としてしまいました。
そうするとジェームスが手をさしだしたので、ひろみはジェームスと握手をしました。
ジェームスは体を屈めてひろみの顔をじっと覗きこんで、ニッコリしました。
そして、「かわいい」と言いました。
そして、ひろみをハグしました。
「かわいいヒロミ。フミコと同じかわいい『ジャマとダマシイ』」
史子は笑いながらジェームスの肩を叩いて言いました。
「ジェームス、『ジャマとダマシイ』?
『大和魂』と言いたいの?
それなら『大和撫子』と言ってください。」
「ジャマと、あ、大和撫子。わかりました。」
ひろみは自分の事を「かわいい」と言う人に初めて会いました。物心ついてから「かわいい」と言われたのは初めてだ、と思いました。
「私、かわいいの?」とひろみは言いました。
史子とジェームスが頷いて「うんうん、ひろみはかわいい」と言いました。
「だって、かわいいと言うのは、クラスの女の子達の事で、私は普通のパッとしない女の子で」
「ひろみ、あなた、ひとの愛情の心や言葉はそのまんま受け取っておきなさい」
と史子は言いました。
「え? だって、私みたいなのがかわいいだなんて、言われて喜んでたらなんか、厚かましいと思う。」
と、ひろみが答えると
「あんたねー! ひとの心を何やと思ってるの! それだけでなく、あんたね、自分のことを何やと思ってるの!」
見てみると史子は目に涙をためながら必死になって言っています。
「あなたね、ひとから言われた言葉、褒められたり優しく言われた言葉はそのまんま受け取りなさい!」
ひろみはおばの史子が自分のことを本当に心から愛情をかけてくれている、と思いました。
「はい、ごめんなさい。」
「自分のことをかわいくない、と思ってるのは、本気で思ってるの?」
「はい。」
「それが、かわいいひろみが、かわいくなくなる元の原因よ。」
「わたしがかわいくなくなる。」
「そう、ひとの好意は素直に受け取っておくのよ。」
「はい。あの。」
「なに?」
「おばさん、ありがとう。」
ひろみは鼻水と涙が出て来ました。
「だって、だって、だって、わたしのこと、みんなかわいくないって。グズッ。みんなかわいいのは英子みたいなタイプで」
「みんな、って、誰よ、そんなことを言うのは?」
「クラスメイトの十人位か。」
「バッカねー。まだ社会に出てない、人を見る目のない子からそんな事を言われて、本気にするな。」
「はい、わかりました。」
「まだ中学、高校の分座で、仲間ハズレなんかしてる子の方がかわいくないね。あんたには凄いジャマとダマシイがあるんだから!」
そう言うと三人で笑いました。
「ひろみはジャマとダマシイのある、大和撫子!」
「ひろみはジャマとダマシイ!」
「私はジャマとダマシイ!」
三人で笑いながら泣きながらハグをしました。
それから、ジェームスの作っておいたシチューを三人で食べました。