ひろみの広い空2
ひろみは声のした方を見ました。
そこにはちょっと大きな花柄のワンピースを着た中年の女性がいました。さしずめアジアン・エスニックといった雰囲気。髪は無造作に束ねるようにまとめられていました。
「あ、クレア。」
「ひろみ、クレアじゃないでしょ。私はあんたのおばさんで、名前は史子です。」
「でも、クレア。クレアはクレアじゃない。」
「まぁ、いいわ、クレアでも。クレアで行きましょう。」
「うん、おばさんはクレア・史子・松本。格好いいじゃない。」
おばの史子は、それには答えず、ひろみの足元にいくつか転がっている荷物のうちの一つを持ちながら話しかけました。
「じゃあ、行きましょう。今日はここまでくるのに大変だったでしょ?」
「うん、朝から乗り継いで、こぉんな遠いところまで一人で来るのは初めてで大変だったよぉ。」
二人は人気のない駅のホームから無人の改札口を通って、木がたくさん茂っている中の細い道を歩き出しました。
「ひろみ、みんなは元気?」
「うん、お父さんもお母さんも元気だよ。康雄は野球とサッカーを頑張ってる。」
「そう、来年中学だった?」
「うん、あいつ、もうあたしより背が高いんだよ!」
「ふふっ」
「毎日、見るたびに悔しくって、『こしゃくな』って思う。」
「ふふっ、こしゃくな、か。おじいちゃんのセリフだね。」
「うん。おじいちゃん。」
そういうと二人は黙って道を歩いていきました。
いくつかの田畑を通り抜けて、林の中を歩き、一軒家が見えてきました。